Fauna+DeSIGN 一級建築士事務所ファウナ・プラス・デザイン

■犬と暮らす家に同じものはない!

私は設計活動の傍ら、犬の室内飼いについて多くの時間を割いて研究しているので、特別な家だけでなく、ごく普通の家での犬との暮らしを沢山見させてもらっています。 とりわけ写真を撮らないという約束をして訪れる家では、面白いものを少なからず発見できます。 風通しを得るため和室のフスマを開けたままにしたいのに、犬が仏壇に供えたご飯を食べてしまうことに困ってしまった飼い主さんは、フスマの隙間に膝丈ぐらいの高さの細長い板を挟んでドッグフェンスを作っていました。 玄関の段差がキツイお宅では足の短いダックスフントのために日曜大工でとっても小さな階段を作っていました。 犬の飼い方の本を読んで「ハウス」が必要だと考えた飼い主さんは段ボールで家の中に三角屋根の犬小屋を作っていました。 それらはお世辞にも綺麗とは言えない代物で、決して雑誌等に紹介されることはないのでしょうけれど、それぞれの飼い主さんの愛情や工夫が込められた、犬と暮らす家の重要な構成要素なのです。
ヒューマンスケールとケイナインスケールが混在する、私のような研究者にとってはとても面白い空間がそこにあります。 そしてそれらは、非常に個別的なもので、決して標準化できるものではありません。 これらの事例をヒントにして、私は「犬と暮らす家」を設計していますが、やはり標準的なものなど1つもなく、その家で暮らす人間と犬達との間にのみ成立する極めて個別的なものとなっています。

■犬と暮らせない

家庭犬としての躾ができているのなら、イス式の生活をゆったりとできる広さと、十分な収納、風通しが良くエアコン無しでも熱中症にかからない程度の快適性があれば、特に犬用の設備は何にもいらないと私は思います。 しかし、日本の平均的な住宅事情ではなかなか上記の要件を満たすのは難しいようです。 Gレトリーバーと暮らしているということで訪れた数件のお宅では、犬は屋根付バルコニーに置かれたケージの中で、道行く人に執拗に吠えていたり、リードをつけられたまま玄関土間で飼われていたりしていました。 それらは結局の所、外で飼っているのと同じ事ですし、人なつっこい性格の彼らには、中途半端に主人と隔離された場所で長時間過ごすのはストレスになっていることでしょう。 何らかの問題行動がある場合には、それを増長させる要因にもなりかねません。 なにしろ楽しいドッグライフじゃないと私は思います。 話を聞くうちに、このような飼い方にせざるを得なかった理由は犬の習性に関する飼い主の知識不足以上に、「家の狭さ」が大きな要因であることがわかりました。 ですから私は、自分の設計において、狭い家なら空間を立体的に使うことで問題を解決しようと試みています。 犬には人間が必要とするほどの天井高は不要なので、犬の為の空間の上部にロフトなどの人間の為のスペースを造ります。

■ペット共生住宅とはなにか?

世間では「ペット共生住宅」という言葉が何か特別なものを意味するかのように一人歩きしていますが、どんな家だって犬や猫が家の中に居れば「共生」することになるのだから、とりたてて騒ぐほどのことではないのかもしれません。 とはいうものの私自身「犬と暮らす家」を専門に設計しているわけで、「共生」については正確に述べる必要があるでしょう。
犬は昔から人の側にいて仕事をしてきました。彼らは今も変わらず仕事をしたがっているのですが、人間が彼らに求めるものが変化してしまいました。伴侶動物として人の側に居て欲しいと強く望まれるようになったのです。 どのように側に居て欲しいのかは各家族によって違います。そして犬にとっての家族(=群)の構成員は、ほとんどが人間なわけですから、客観的に見ると、私たちは彼らの精神に大きな影響を与えていると言えるでしょう。 もちろん生活の場である家もその要素になります。犬は犬の生活を勝手に送っているわけではなく、依存するそれぞれの飼い主の影響を受けながら生活しています。 飼い主が機会を持って促さないと子犬は十分な社会化期を過ごすことができませんし、人間のように自主的な社会参加を通して規範的な行動を自覚することもありません。 飼い主が最後まで全てにおいて責任を持って共に生きなければならない。故に「共生」なのです。
私は「犬を取り込んでしまった家族」の「共生の状況」を正確に把握することが、「犬と暮らす家」を設計する際のプロセスになると考えています。 つまり、犬を対象とした「ペット共生住宅」とは犬用の設備や特別な建材を用いた「箱」のことではなく、「新しい家族形態」に対応できる住宅のことなのです。

文:廣瀬慶二(ひろせけいじ)2006/05

犬と住む家を考える(コラム)につづく

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