2022年7月24日

猫と暮らす家

猫と暮らす家について 2009年〜

猫と暮らす家について、Title : 猫と暮らす家の考察・完全室内飼育
Title : 猫と暮らす家の考察・完全室内飼育

1.猫と幸せに暮らすなら完全室内飼育にするべきです。

 かつてはイエネコであっても、猫を自由気ままに外出させることが普通でした。ですが、今は違います。 近隣に対する配慮は言うまでもありませんが、交通事故や病気の感染を避けるためにも、猫を家の外に出さないようにするべきです。 最近は生物多様性保全の問題もあります。

 幼い頃、私の家には沢山の猫がいましたが、最後に飼っていた猫は、目の前で交通事故で亡くなりました。 そんな悲劇を起こさないためにも、猫は「完全室内飼育」にするべきだと思いますし、 現在では、ほとんどの都市生活者はそのようにされていることでしょう。 それ故に、私のもとには猫との暮らしの中で起こる、「家の悩み相談」が多く寄せられます。 そして、それらのほとんどが、爪とぎやオシッコによって室内がひどくダメージをうけてしまったというような内容です。

キャットウォークと窓の位置関係を示す写真
飼い主があらかじめ準備しておけば大丈夫。

2.あなたの猫が家を壊すのはなぜか?

 猫にだって「しつけ」はできます。爪を研いでほしくない場所も人間が時間をかけて教えれば覚えます。 ただ、その方法が犬とは若干異なることと、「しつけを行った結果」として得られる成果が、 様々な別の要因によって、あまり満足のいくものにならないという現実もあります。 ですから、まずこの問題の根本である「猫はなぜ家を壊すのか?」という問いについて、答えを知る必要があるでしょう。 以下に記すのは、猫目線のストーリーですが、掘り下げると「飼い主のすべきこと」が見えてくると思います。

・24時間家の中に居るので退屈しているんです。→
・虫がいたので目の前の壁を引っ掻いてみたら、破けたよ。(※壁紙)→
・破くの面白い!もっと引っ掻く!なんか出てきた!(※石膏ボード)→
・あれ?粉が出てくる!粉が飛ぶよ!もっともっと引っ掻くよ!(※石膏の粉)→
・あっ、ごはんの時間?食べます。食べますとも。(※その間に壁の破壊発覚)→
・あれ?さっきの場所、なんか変わってない?これも引っ掻く?(※段ボールを貼って応急処置済)→
・これ気持ちいいよ!爪研げるよ。わぁいいかんじ。気に入ったぁ!(※狂ったように爪を研ぐ)→
・あーあ。外れちゃったよ。引っ掻きにくいなぁ。他に無いの?無いよね。退屈。。。→(繰り返し)

3.猫の問題行動を回避するいくつかの試み

 上記の例は、些細なきっかけで起こった、破壊行動の1シーンです。 このほかにもドアを傷つけたり、マーキングしたり、 人間からみれば「問題行動」と呼べる困った事を猫は次々としてくれますが、 さまざまな猫の問題行動の内、家に関する困りごとについては、「退屈させない空間」を猫に与えることで、 ほとんど解決できることを私は自分の設計を通して確認しています。

 また、多頭飼いが理由で問題が顕著になる場合には、「個体群密度」を可能な限り低くすることで、 問題を起きにくくすることができます。 猫には猫のルールがあって、彼らは時間と空間を意識しながら、猫同士のトラブルを起こさないようにある程度の秩序を持って行動しています。 ところが、自分の意思に関わらず、狭い空間の中で複数の猫と暮らすことになると自分の優位性をアピールするために爪とぎも含めたマーキングを頻繁に行う傾向があります。 単純に広い家に住めば、個体群密度は低くなりそうなものですが、それだと猫の姿をほとんど見ることなく一日が終わり、猫と一緒に暮らす喜びも無くなってしまいますから、ここは一つ「建築的」な解決法が望まれるべきでしょう。

 例えば、 The Cats' house(2009年8月竣工)のような 「猫の生態」をきちんと把握した上で、彼らの身体寸法に合った立体的な多層的空間を創造し※1、 猫にとって必要なもの(麻縄を巻いた爪とぎ柱など)をあらかじめ家の構成要素の一つとして用意しておくと、家を破壊されることもなく※2、人も猫もストレスが少なくて済む、幸せな暮らしが実現できます。

4.猫達の本当の姿を見たくありませんか?

 猫は飼われていたとしても、精神に野生の部分を残している動物です。なのに、狩りはさせてもらえないし、走りたいのに直線距離は短すぎるし、 気が済むまで散歩をしたいのに、狭い家の中ではすぐに行き止まり。 ダッシュやジャンプ、高いところに行きたい衝動も、家の中ではまったくできない。 おもちゃみたいなキャットツリーじゃ、ちっとも楽しくないっていうか昼寝用のベッドです。結局、人にとって都合が良く、それでいて、活き活きとした猫の姿を見たいなら、 「普通の家」ではダメだということを、多くの猫好きの方々が気づき始めた気がします。 私達が猫に対して無理強いしている「空間的制限」が一つでも多く無くなるように、 飼い主が、ちゃんと応えてあげれば、 「破壊行動」や「捕食行動」なしでも、猫たちの「躍動する本当の姿」を見ることはできるのです。

猫が柱を登る写真
麻縄を巻いた柱を1秒もかからず登る。

 そんな実例をファウナプラスデザインの作品集で確認してみてください。 これは「猫と住む家」に対する猫の環境エンリッチメント住宅の提案です。

(初出 2009年10月27日)

■The Cats' House についての注釈
*1:猫専用の通路などを空中に設けることで、25㎡以上の猫専用空間を確保した。
*2:15匹の猫が居た建て替え前の家では、あらゆる部分が破壊・汚染されていた。
The Cats' Houseでは、2ヶ月を経過した現在、 猫による室内空間の破壊・汚染は全く確認されていない。