2022年7月28日

猫と暮らす家

猫と暮らす家についての解説(自邸編part3)

猫と暮らす家についての解説(自邸編part3)、Title :猫と暮らす家の断面図・高さ設定について
Title :猫と暮らす家の断面図・高さ設定について

::猫と暮らす家の設計理論 Advance Series::

1.縦方向のデザイン(断面図)を読み解く

 猫と暮らす家は猫の縦方向の動きを意識してデザインしなくてはなりません。猫と暮らす家に限らず、あらゆる建築設計の上手さや巧みさは断面にあらわれてきます。断面を洗練させるのには仕事のクオリティーが高い設計事務所での実務経験がいりますから、それはアマチュアの領域ではありませんし、同じプロでも断面計画にはうまい/下手がはっきりとあらわれてしまいます。
 ではこの家の断面図を見ていただきましょう。

猫と暮らす家の 断面図
住吉山手の家の断面図

 断面図の中で黄色に着色してある部分は「猫専用」と呼べる住宅の部分です。いまやスタンダードになってきた感のあるキャットウォークキャットツリーなどが配されています。そしてそれらが最終的にはロフト階のメインキャットウォーク(大通り)に繋がっているのがわかると思います。

2.断面の寸法体系

 最近は、私が図面を建築知識などの雑誌に載せたり、自著で詳細図を発表したりしているので、それらを参考にされる方が多くなり、断面的に猫にとって不都合な事例は少なくなってきたと思います。2010年ぐらいまではひどい有様で、他者が作ったダメなキャットウォークや猫ステップを作り直したことがあります。
 猫に対して好ましい断面の寸法体系の考え方は簡単で、43cm以内の高低差でリズミカルに段差を作り、猫が移動したい場所の上部(猫の頭上)には必ず25cm以上の空間があるように気を付けていれば、ほぼ上手くいきます。この範囲内であれば、猫のフィジカルは許容してくれると考えて大丈夫です。
 それから面白いことに、人間の上りやすい階段の寸法と猫がゆっくりと音を立てずに昇降する寸法は同じです。例えば、蹴上げ19cm、踏み面24cmの階段などは人も猫も使いやすいものになります。
 話が逸れますが、人間の階段について、未だに2R+T=60(奥山美佐雄『階段に関する研究』1937)を最適解だとするWEB上の記事が散見されますが、現在の日本人の体格からは離れた時代の古い式なので間違いだと思っておいた方が良いでしょう。

3.fauna+designのキャットツリーについて

 fauna+designのキャットツリーは私が2009年に設計監理した「猫15匹犬5匹の家:The Cats' House」で初めて採用しました。105角の柱に25mm厚の500角の板を1/4カットしたものを等間隔に固定するだけのこれ以上ないシンプルなデザインです。後にこの家を題材にフォトエッセーが書籍化されたため、一気に全国に広がりました。

 「猫15匹犬5匹の家:The Cats' House」では合計4本のキャットツリーをそれぞれ異なる踏板のピッチ(33cm、37cm、38cm、43cm)で配置し、どれが一番よくつかわれるかを調べました。
 下りはどれも同じくらいの頻度で使われますが、登りに関しては38cmのものが、平均的な体格の猫にとっては好ましいようです。自邸用にデザインしたキャットツリー(断面図ではDと表記)は見栄えを優先し、450角の踏板で350mmピッチにしています。全長4.5mあります。よく使ってくれます。

巨大なキャットツリー
fauna+designのキャットツリー

4.猫ステップ

 これまで私が設計してきた家では、猫ステップを猫の昇降手段として多用してきましたが、この連載のpart1で触れたように、住居を都市に見立てる考え方を形にあらわす際、猫ステップは地形のイメージよりかなり小さい造形になってしまうので、自邸では採用を最小限にとどめています。しかし、省スペースで高い場所にいくパーツとしては優れたものだと思います。
 自邸で猫ステップを採用した場所は、1階と2階の猫ダイニングとその上部にある吊戸棚に上がるためのものです。

猫ステップの写真
猫ステップ

 ここでの猫ステップは、壁から25cm突出した長さ30cmのステップを28cmの段差で並べています。途中で折り返しが必要な場合は、必ず壁からの突出寸法を25cm以上にしたほうが良いでしょう。小さくなると猫が体を回転させにくくなります。

自邸編part3(2022.07.24)
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