2022年7月28日

猫と暮らす家

猫と暮らす家についての解説(自邸編part4)

猫と暮らす家についての解説(自邸編part4),Title : 猫の居場所を計画する・猫がいる家のインテリアを妥協しない
Title : 猫の居場所を計画する・猫がいる家のインテリアを妥協しない

::猫と暮らす家の設計理論 Advance Series::

1.猫の居場所(猫ロフト・猫大階段等)

 うちに来た時には仲が悪かった2匹ですが、だいたい猫の仲の悪さというのは少ない資源を取り合っている状態がほとんどなのです。私の家ではすべてに満足してもらえそうな環境を丁寧に創りましたから、今は仲良く怪我しない程度に喧嘩しながら遊んでいます。不思議な関係です。

保護猫 チャイ
チャイ♀推定3歳(迎え入れ時)
保護猫 シロイ
シロイ♀推定4歳(迎え入れ時)

 part1に書きましたが、住居を都市に見立てることで、完全室内飼育下にある猫の環境エンリッチメントは実現できますし、環境エンリッチメントが猫に対してなされている家を分析すると、既存の都市の構造に似た要素に整理されるはずです。猫にとってお気に入りの居場所や遊び場が上手にキャットウォーク等のネットワークによって接続され、特定の場所だけでなく、そこに至るキャットウォーク自体に意味や用途を見出せる様になっているならとてもいいですね。このあたりの詳しい話は拙著『ペットと暮らす住まいのデザイン(増補改訂版』の第5章と6章に詳しく書いていますし、当コラムページでも、自邸編のあとに連載予定の「猫的町並みを住居に展開する」シリーズで述べていきます。

1-1 猫大階段

 私の家でまず目を引く猫のための造形はこの猫大階段だと思います。そして、これがあったおかげで、仲の悪かった2匹も比較的早く仲良くなれたように思います。お客様の家でも、猫同士のパワーバランスに偏りがある場合には、この猫大階段を創らせてもらっています。

猫大階段の例 本棚内蔵
猫大階段

 床より1.4mほど高い位置にある猫ロフトへ行くことができるので、猫は本能的にここを登ります。もし、喧嘩の仲裁に建築が貢献できるとすれば、複数の猫が階段を登ったり下りたりする時に、すれ違いざまにパンチしたりされたりすることで事件が発生するので、縦方向にも横方向にも間合いを取れる広い場所が有効に働きます。それがこの猫大階段です。
 また、住居を都市に見立てる場合には、それに見合った十分な大きさが必要で、猫は毎日ここを登ったり下りたりして、まるで地形を楽しんでいるように見えます。

1-2 猫ロフト

 猫ロフトは、その上にいる猫と人間の視線の位置がだいたい揃うので、飼い主にとっては楽しい仕掛けです。床より高い位置にあるので何もなくても猫はそこに行きますが、猫ロフトにだけ床暖房を入れておくと、冬場は必ず猫がいる場所になりますし、部屋全体を暖かくするよりは冬場の省エネに貢献してくれます。猫ロフトの上には人間用の一人掛けソファのいいものを2脚置いています。目立ちますから、ほどほどにいいものを選んで置いています。

猫ロフトとラウンジチェア
猫ロフトとラウンジチェア(左:カッシーナのカクト、右:ポラダのドリスチェア)

1-3 窓の前

 猫の居場所として特に気を使ってあげたいのは窓の前です。難しいことはしなくていいのですが、ほんの少し壁を分厚くして、窓の額縁(腰窓であればサッシの4方を囲む部材)の奥行きを広くしてあげましょう。猫がゆったり窓の前でくつろぐことができます。

猫ロフトにある地窓、小田隆作「インドネシアシーラカンス」
猫ロフトから見て低い位置にある窓。前が道路なので迎えてくれる。

 そのほか、キャットウォーク上から窓を通して、猫が外を見ることができるようにしてあげることも大切です。人間だって道を歩くときに風景の移り変わりを期待するものです。ですから、キャットウォークが窓の上に取り付けてあり、外が見られない状態にあるような事例を見ると残念でなりません。

キャットウォークと窓
キャットウォークは窓よりも低く取り付ける

1-4 猫のための家具

 ペットショップでは猫用のベッドなどが売られていますが、私はこのページの1-2で具体的に書いたように、人間の一人掛けソファやラウンジチェアとよばれるものを猫に開放した方が良いと思っています。それはひとえにインテリアの質を落とさない為です。「猫用の何か」というものに関しては需要の関係で良いデザイナーがかかわることは稀ですので、人間用の良い家具が好ましいと思います。だって当の猫はといえば、猫用とか人間用とかの区別をせずに使いますから。ただ、引っ掻く癖がある子に関しては、布地が破れるのを避けたいので、シンコールなどの布地のメーカーが出しているスゥエード調の引っ掻きに強いファブリックを使うと良いでしょう。

アンティーク家具と猫
猫は狭いところや小さいベッドを好む等の話は信用しない方が良いと思う

2.猫とインテリア

 part1からpart4まで読んでいただいて、猫と暮らす住まいを専門に設計している私の考え方がなんとなくわかっていただけたと思います。猫の生態に配慮した造形云々などの難しい話もありますが、住まい手に取って一番大切なのは、猫のためにインテリアの質を落とすのは馬鹿馬鹿しいというはなしです。
 猫の形をしたレバーハンドルとか、肉球の模様のついた「猫用の何か」とか、普段から身なりに気をつけているような人が、猫のために突然そのようなものを家の中に持ち込んだり、建築関係者から勧められたりするのは不幸なことだと言わざるを得ません。肉球などの粗悪な猫モチーフは排除したほうがよろしいかと存じ上げます。なぜなら、当の猫は、そんなものにまったく興味がないのですから。

自邸編part4(2022.07.28)