2022年8月4日

犬と暮らす家

日本での犬の室内飼いを考える

日本での犬の室内飼いを考える、title : 犬と暮らす家の住まい方調査
title : 犬と暮らす家の住まい方調査

1.コンパニオンアニマルとしての犬

 犬が伴侶動物(コンパニオンアニマル)として家の中で飼われる事がやっと一般的になってきた気がします。そして、室内飼いの歴史がまだ浅い日本では、飼い主がそれに不慣れであるため、「家の中でのトラブル」が多く存在し、現状では多くの家庭で、犬が家の中に居る「豊かさ」よりも「混乱」の方が多く生じているのではないでしょうか?
 それらを解決する一番の方法は、飼い主が犬に対する正しい知識を身につけ、必要に応じて、カウンセリングやしつけ教室に通うことが不可欠であると私は思っています。
 犬の問題は飼い主の問題です。飼い主が賢ければ犬は賢くなります。飼い主にとって都合のいいルールを犬に覚えさせれば、家の中の問題は減少し、犬と共に過ごす空間の豊かさを実感できるでしょう。
 しかし、問題行動に対するカウンセリングやしつけのテクニックで解決できる問題とは別の次元で「家の中でのトラブル」が少なからず発生していると私は見ています。それは日本の住宅様式、事情が、(家の中で昔から上手に犬と暮らしてきた)欧米とは大きく異なるからです。

伏せ・マテ に従う犬
「伏せて待つ」down+stay 犬との生活では必須のトレーニング

2.玄関土間という不思議な空間から考え始める

 欧米の住宅と日本の住宅を比較した場合、一番わかりやすい違いは日本人は家の中で「靴を脱ぐ」という要素です。ですから輸入住宅であっても必ず「玄関土間」というものが存在します。そして、そこはどうしても、機能上、人も犬も、「一時的な訪問者と対峙する場」になってしまいます。
 飼い主さんは2畳くらいの狭い空間で、靴を履いたままの訪問者と1段上がった場所でやりとりをするわけですから、側にいる犬にとっては自然と身構える雰囲気が出来上がってしまうでしょう。
 またその逆もあって、飼い主さんや大好きなお客さんが「お別れの際に撫で撫でする」特別な場として認識している場合もあります。
 いずれにせよ、日本の家の玄関はニュートラルな場になりにくいので、土足で生活する欧米の家とは、空間の機能にかなりの違いがあります。

 このように「玄関」ひとつとってみても、犬にとって特別な意味があり、また、人間側も無意識のうちに「空間によって行動を支配されている」ことを自覚すれば、その他の部分でも快適な生活のヒントがたくさん発見できるはずです。

 便利そうな設備や建材を使ってみるだけではなく、犬の心理や行動を理解しながら、(ここが本質なのですが)家の中での自分の行動を意識すれば、「しつけ」がしやすい環境をうまく創り出すことが出来て、きっと、日本人に適した「理想の犬と暮らす家」のカタチが見えてくるはずです。

3.犬と暮らす家の住まい方調査

 「ペット共生住宅」と呼ばれるモノ(又は概念)に対して、ファウナプラスデザインは、現在、明確な「答え」を持っています。

 家の中で過ごす「ヒト」と「動物」の間に起こる行動は、日常生活の中で偶発的に生じているわけではなく、多分に「家の間取り」の影響を受けて規則的・必然的に発生していることを長年のフィールドワーク(=「ペットとの住まい方調査」)を通して、確認することができました。

 さらに、現在では、家の中で起こっている、飼い主と犬の関係については、犬に対する飼い主の行動が、自覚的である/無意識である、さらに、屋内での犬の特徴的な行動を、飼い主が問題行動として
認識している/許している、などの区別をせずに、家庭内で起こっている、「ありのままの状態」を「オペラント条件づけ」として把握し、「間取り」との関係性を発見する研究※1 を行っています。

犬と暮らす家の住まい方調査 間取り図
フィールドワーク(住まい方調査)の一例


※1 中央動物専門学校共生科の学生と2009から500件を超える調査を継続中

 弁別、強化、消去など、行動分析における明快な科学的法則に当てはめて把握した家庭内のトラブルは、当然のこととして、それを「操作する」ことができます。そして、その操作に「新たな住宅の間取り」を用いることで、「犬と暮らす家の間取り」は完成形となると考えています。将来的には「しつけ」や「トレーニング」に無自覚でいられるような家を、デザインすることが出来るでしょう。ただし、飼い主の介入なしでの実現はありえません。

オペラント反応 一覧表
強化子・罰子・家の中で起きること

4.陽性強化法? B.F.スキナーの行動分析学

 犬のしつけの世界には、長い間「陽性強化法」とよばれていたモノがあります。
[ほめるしつけ=陽性強化法=あたらしい正しいしつけ]と認識されていたようです。
また、ベストセラーになったブルース・フォーグル博士の著書『ドッグズ・マインド』(1995)でもこの言葉が翻訳で使われています。ですがそれは、行動分析学の伝統的な日本語訳だと「正の強化」の事です。犬の学習理論について学び始めの方には混乱をまねく要素になっているので、「正の強化」や「報酬ベースのトレーニング」等の言い方を用いるほうがよいでしょう。


 話がそれましたが、家庭動物の行動に関して考えるとき、私は、B.F.スキナー博士の行動分析に立ち帰ります。いろいろと説明が面倒なので、犬や猫に関する話をするときには「動物行動学」と言ってしまうことが多いのですが、たぶん今まで私が「住まい」を通して研究してきたことは、エソロジーとは少し異なるものだと思います。

 さて、B.F.スキナー博士は、罰の副作用と正の強化による理想的な世界のありかたを多くの著作で述べています。詳しく知りたい方は、現在でもインターネットで入手できる日本行動分析学会への寄稿文「罰なき社会」や、最近あたらしく翻訳された「自由と尊厳を超えて(訳:山形浩生)」を読むとよいでしょう。

 飼い主が自身の行動の随伴性に自覚的であれば、問題行動やしつけの話は、ずいぶんスッキリします。ですから、この続きは拙著「ペットと暮らす住まいのデザイン」(2013.10.30発行) の第4章をお読みください。B.F.スキナー博士が創った「行動分析」を用いて、犬と飼い主と住まいについてまとめました。たぶん、世の中にばらばらに存在していた話を、「住まい」を舞台にうまく1箇所に集められたと思います。

この記事の初出 2009.09

2021.12.02追記
ペットと暮らす住まいのデザインは5刷まで出版した後、増補改訂版が出ました。
増補改訂版は下記リンクから購入できます。(全国のほとんどの図書館にもあると思います)